屈折率

kotohirateiji2008-11-08 
著者:佐々木譲
書名:屈折率
版元:講談社文庫
 
バブル崩壊後、技術はあっても経営と営業に弱い日本の小規模な工場が舞台。商社マン上がりの主人公が実家のガラス工場再建に乗り出す。モノを売ってきた男がモノづくりの現場の素晴らしさに気づきやがて本気になっていく物語。
 
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「物をつくってるんです」
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僕が小学生のころは、家の建築現場に行くと木っ端をわんさかもらう事ができた。トンカチ、鋸、キリに釘。これでなんでも作れた。飛行機、ロケット、戦車に自動車。船をつくった時は近所の池へ行き進水式で盛り上がった。在る程度の世代まではモノは自分でつくったほうが早くて安かったのだ。
気がついたら家は工場で作られたパーツを組み合わせるものになってしまい、木っ端はそうそう気前よくもらえなくなってしまった。危ないからという言葉で子供達から刃ものは奪われてしまった。気づくと街には輸入の安いものがあふれ、自分でつくるよりは買ったほうが早くて安いようになっていた。
 
モノを作る事は単純に楽しい。単純な素材だったものが自分の考えと手間によってまったく別のモノに生まれ変わる。思い通りにいかない時は腹立だしい、怪我をした時は単純に痛い、始めてみると意外と作るべき量が多くて途方に暮れる時もある。けれどもそれが完成した時の喜びは何事にも換え難い。エンドルフィンがドっと出るのが分かるくらいに気持ちよい。

息子よ。まずは積み木から始めてみる事にしようか。次にブロック、これはマンションの北の部屋、棚の一番下に隠しておいたからそのうち自分で見つけるだろう。そして幼稚園に入るころには工具箱をプレゼントしてあげよう。自分の指をトンカチでうっかり叩いてしまった時の君の半泣きの顔を想像すると、ちょっと嬉しかったりする。

屈折率 (講談社文庫)

屈折率 (講談社文庫)