始祖鳥記

kotohirateiji2009-04-19 
著者:飯嶋和一
書名:始祖鳥記
発行:小学館文庫
 
1903年
ライト兄弟、初の有人動力飛行。
1896年
リリエンタール、グライダー開発中に事故死。
1891年
二宮忠八、ゴム動力付きカラス型模型飛行機飛行。
1785年
表具師の幸吉、岡山城下にて有人滑空飛行に成功。)
 
リリエンタールが飛行実験を繰り返す100年前に、岡山の奉行所や寺社に残る古い資料の数々を信じるのならば、すでに日本で有人飛行があった事になる。本書は「どうしようもなく飛びたかった」男の生き様にスポットをあてて、同時代に生きた他の人間たちとのかかわりを小説に仕立て上げた逸品。3部構成になっているのだが、2部は唐突に登場人物と舞台が変る。この2部からの人と人とがおりなす人生の綾がグっとくる。そしてまとめの3部、広がった話がたいへん綺麗に畳まれており読後感も清々しい。
 
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「おれは、それから逃げていただけだ。やっと踏ん切りがついた。とうとう遠州灘を越えねばならん日が来たと、」(主人公の旧友)
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今回本書の主要な舞台のほとんどは、実際自分の足で歩いた事のある場所だった。本書の江戸時代の描写と自分の記憶にある空気感とをてらし合わせながら読み進めていくのは、なんともいえない不思議な気分にさせてくれる。200年以上前の人達が生活していた場の延長に今の自分の生活をある事をこれだけ感じるさせてもらえるとは。そしてなにより素晴らしいのはとてつもない元気を本書が与えてくれた事だ。仕事や家庭の事を改めて考え始める40代男性にとって、これほどシンプルに力強く生きて行く事の意義を共感させてくれる筆力には感謝するしかない。
 
息子よ。君は何を志し、どんな道を進むのだろうか。その道は誰の道と出会い、そして別れていくだろうか。本書は君にとっても自分の生活の標を知る手だての一つになるだろう。また本筋とは別に本は時代をこえて生活をつなげてくれるという楽しみ方もあるこという事を知っておいて欲しい。やがて君が冬のある日、一番近い海辺へ行った時吹き付ける風の名前の旧い呼び名は、もう一つの君の血筋と同じ呼び名だったりするのだ、そんな事も本書には書いてあったりする。読書もまた出会いだ。

始祖鳥記 (小学館文庫)

始祖鳥記 (小学館文庫)